陽のあたる場所 =13=



 床にあたるシャワーの水が空気まで暖めるように湯気を立てている。だが、そこには当たるべき人物の姿はない。
「あ……ぅ」
「力を抜かないと、後がきついぞ」
 広めのバスタブには、湯が浅く張られている。それは身体を冷やさないためであって、身体を温める役割を担ってはいない。
 お湯には天野が身体半分で浸かっていた。その腰をまたぐ格好で之路がいる。
 天野の肩とバスタブの縁を支えに辛うじて自分の体重を支えるのに必死だ。
「や……そ、こ……っ」
「力を入れるなって」
「そんな、の――」
 無理、と小さく呟く声が悲鳴に取って代わられる。之路の中にある二本の指が我が物顔で自由に蠢いているのだ。時折思い出したように掠る場所が、之路に声を挙げさせる。
 悪戯のように胸に顔を寄せられ、之路は息を呑む。すでにつけた鬱血の痕に舌を這わせば嫌がるように首を振った。
「ここ、だろう?」
「やめ……っ」
「そういうときは、違う言葉で訴えろよ」
 天野の言葉を肯定するかのように、之路の爪が肩に食い込んでくる。ピリッとした痛みに傷になったかもしれないとふと思う。他人事のように頭の隅で判断して、天野は目の前の獲物を見上げた。
 自分の指に翻弄される若い躯。喘ぎ声を殺そうとして突っぱねる態度が何よりも男を煽るのだと知らないのだろう。まったく、楽しませてくれる。
 後ろへの刺激が苦痛だけではないことを表すように、一度達した果実もまた復活していた。先走りが之路の限界を知らせている。
 柔らかな唇に指を伸ばし親指を侵入させる。頤にも指を引っ掛けると、天野は之路の顔を自分の近くへと寄せた。
「なに……んぅ」
 天野に口腔を支配され、吐息ごと奪われる。苦しくて身動きしかけた之路を彼は簡単に引き止めた。
 お互いのが交じった唾液を受けとめきれず、顎を伝って落ちる感覚に之路は思わず目を閉じた。
 そろそろ頃合か。
 眉を顰めて堪えていた之路は解放を促され、息を呑んだ。崩れ落ちそうになった身体を天野に支えられ、そのまま目の前の肩に顔を埋める。荒くなった息を整えようとしていると、耳元で低い声が囁いた。
 欲しい、と。
 耳朶を舌先で嬲られ、之路は思考を止める。それと同時に之路の中から指が引き抜かれていった。之路の意識が与えられるキスへと向けられるうちに、天野は着々と侵略の準備を始める。
「ぁ……う、あぁ……っ」
 自分では見られない窄まりに熱の塊を感じる。そう認識した時にはすでにそれは之路への侵入を果たしていた。あとは之路の体重で自ら呑込むような形になる。
 当然指とは比べ物にならないそれに之路は涙を零した。じりじりとした苦痛と異物感に身体を硬直させるが、天野に誘導されるがままに腰が降りていく。
「く……っ」
 天野の呻き声がしたが、それに応える余裕も与えられない。震える腰に手がかかったかと思うと、一息に残りの距離を埋めさせられた。
「――――――っ」
 まるで四肢を奪われたかのような痛みが之路を襲う。訪れた衝撃に之路は歯を食いしばった。身動きはもちろん、声を出すことさえ自由にできない。
 自分の身体なのに意志が働かない。
 硬直する之路の口もとに、天野の指が近づいた。引き締められた唇を割ったそれは歯茎をなぞり、無理やり口腔へと入り込んでくる。喉の近くで縮こまっていた之路の舌を発見するや否や、それを弄りだした。
「う……ぅ」
 下半身とは別に与えられる感覚に之路は縋った。ゆっくりと自分から指を相手に舌を動かし始める。
「ん……う……あぁ」
 おまけとばかりに天野が、痛みと衝撃によって力をなくしていた之路のそれを空いた手で弄り始めた。上と下とに与えられて、之路の意識が痛みから逸れていく。
 締め付ける力が弱くなったのを悟り、天野は笑みを浮かべる。指を引き抜き、唾液で光る場所に唇を寄せた。躊躇うことなく重ねたそれをあやしながら、自分の肩で固まったままの指を取り背後へと回させる。
 苦しいか、なんて訊くつもりはない。天野はその苦痛さえ霞んでしまうような快感を植え付けてやるつもりだった。
「……動くぞ」
 開かれた両膝に手を差し込み、緊張の解けてきた躯を持ち上げる。それを離すと同時に天野は自分の腰を打ちつけた。弾みで湯船が揺れるが、どちらも構わない。
「あ……や……ぁ」
 繰り返される律動に狭い器官を押し広げられ、内壁を擦られる。
 それは天野だけでなく他の誰かにもされた行為なのに、何かが違う。
 胸の中に湧き上がる熱に、之路は怯えた。
「ん、あ……なん――……」
 なんで、と言葉にする前に天野のキスで遮られた。その唇が笑っているのを見れば、天野が自分の気持ちを知っていることに之路も気がついただろう。
 だが、今の之路には自分の身にもたらされる感覚だけで手一杯だった。こんな状態を作り上げている原因に、必死になって縋るしかない。
 主導権を握る男に翻弄され、之路は堪えるように数え切れないほどの傷をその背に作った。




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