陽のあたる場所 =10=





 宣言通り、村来は之路の体をゆっくりと探り始めた。調節された空調の中、汗ばんだ掌が之路の白い肌を這い回る。
 なぶるような動きに、之路は吐気を覚えていた。
「……痕は、付けられてないのか」
 何を言われているか気がついて、之路は顔を赤くした。誰かに対する対抗意識とやらでこんな醜態を見せられるほど、之路の人間性は壊れていない。
 顔を反らして無視していると、ふいにその手が動きを止めた。その代わり、男の顔が近づく気配を感じて目を閉じる。ねっとりとした感触に、思わず身体が震えた。
「緊張しているのかな? もっと素直に感じてくれれば良いんだよ」
 首筋に顔を埋めた村来が笑いを含みながら顔を上げた。その直前項に痛みが走り、男にされたことを知る。間違いなく、侵略の印がつけられているだろう。
 満足そうに微笑む男を視界に入れたくない。之路は顔を背け、硬く目を瞑った。
 あのあと、村来はおもむろに顎を捕らえつつその指を之路の口腔へと押し込んだ。嫌がる之路を固定すると、強引に之路へと流し込んだのである。咽る之路をよそに男は繰りかえし、ほぼグラス一杯分が之路の中へと送り込まれた。
 酒を知っているとはいえ、最近の之路はソウを保護者にした飲みしかしていない。ましてや馴染みのない強い酒を流し込まれ、意識が朦朧となってからの一瞬記憶がとんだ。気がつけばシャツは開帳され、下半身の衣類は取り除かれていた。
「相変わらずきれいな身体だ」
 うっとりと肌に直接呟かれた言葉に、之路は思わず背筋を固めた。濡れた感触についてでた悲鳴は喉で音が消える。
 耳障りな荒い息と触られたところから湧く嫌悪感に加え、じっとりとした汗をかく不快感。なにより酒のせいで熱くなりやすくなった身体が悔しい。
 こんな男にされる行為に反応することが之路を突き落とす。
 満悦な表情で自分の身体をいじる男を意識することさえ嫌になる。
 ならば、消せばいい。
 頭の中の声に、逆らう意志が生まれなかった。




 耳を塞ぎ感覚を閉ざす方法を之路は知っている。外部からの全てを切り落とすことは可能だ。――二年前のように。
 蟻に噛まれたとは思えないほどの屈辱は、恐怖を伴って今なお之路を苛んでいる。宵に一人で家にいるのを拒むのは、過去が之路を襲うからだ。
 高校に推薦受験するために親が勝手に頼んだ家庭教師は、高校の合格報告とともに豹変した。最終日、之路しかいない自宅へ数人の男を伴ってやってきたのだ。
 それからのことは、はっきりとは覚えていない。之路の脳が記憶することを拒絶したのだろう。
 残っているのは之路を襲う触覚と嗅覚。
 あのとき、之路は途中で自我を手放した。
 自分から全ての感覚を麻痺させる。そうやって感情を切り離すのだ。
 しかし、一向にその世界へと入っていけない。それどころか、村来の之路に向ける全てのものが更にリアルに感じられる。
 之路の身体を下っていた村来の手が之路の中心へと伸ばされ、思わず身体を捩った。膝で膝を押さえられ、身動きが取れなくなる。
「……やめ……っ」
 制止を聞くはずもなく、村来の手が之路を捕らえた。反対の手が、いつの間にか自由を取り戻していた片足を抱えている。
 強制された態勢はもとより、酒の力とはいえ、拒絶しているはずの手で反応を示していることがショックだった。見開いた視界に入る男は、これ以上なく愉悦に浸っている。そして、男の顔が近づいてくるのを見て叫んだ。
「―――っ」
 嬲られる、という表現が正解だろう。
 掌が比較にならないほどの粘着力に包まれ、之路は目を見開いた。見せつけるように足を大きく広げさせ、動く村来から目が離せない。
 嫌だ、と呟いても、男が聞くはずもなく。
 せめてもの抵抗で頭を振るたびに、堪えていたものがシーツに染みを作る。
「……の、さ……」
 救いを求めた先は、自分でも無意識だった。
 男の動きが一瞬止まる。だが、之路はそれに気づかなかった。
「やめろ!」
「…………さん」
之路の声に対抗するように、村来の行為はエスカレートしていく。それでも之路は口を閉じなかった。
「あま……さ……っ」
 頭に浮かんだからじゃない。
 心が、彼を呼んでいた。



  novel  



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送