陽のあたる場所=prologue=





 幼い頃、どうしても欲しくてねだり続けたものがあった気がする。
 そのときはいわゆるお子さまだったから、想像に洩れず欲しいと叫んだことだろう。
 なんとか理由付きで手に入れたそれも、今はすでにない。あったとしても、目に付かないところで埃をまとっているに違いない。
 結局、自分にとってそのものの価値は何だったのだろうか。

 ――あなたが今欲しいものは?
 アンケート調査用紙に書かれていた、よくある質問。見た途端、それを思い出してペンを放り投げた。
 薄っぺらい紙はもちろんまるめてごみ箱行き。
 欲しいもの、なんてない。
 他のやつらは何て書くのだろう。
 相手を作って。金持ちになって。いい服着て。豪邸で暮らして。
 ばかばかしい。
 浮かんだ考えに知らず嘲笑を浮かべた。
 そんな夢を見る年齢ではないし、金と身体さえあれば大抵のものは手に入る。それは、財力ある両親のもとで育った悪影響かもしれない。
 与えられる生活は、欲するという行為を忘れてしまうには十分なものなのだろう。
 手に入れるだけ手に入れて欲しいものがあるとすれば、それはすでに癖と呼べるだろう。

 欲しいものなんて――ない。





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