陽のあたる場所 +α


+αのページへようこそ。
せっかく来ていただいたので、ちょろっと裏話でもいたしましょう。

この話はもともと姐様サイトにさしあげたものです。ご存知の方も多いでしょうが。
その時点でストーリーはもちろん、天野氏の名前も之路の名前も決まっておりませんでした(マジです)。だって、ちょろっとした文章だけだったし。なのに、なぜか主人公となり相手役が生まれ、脇キャラが生まれたわけです。
そりゃあもう、Ryanにとっては「え? え?? ええっ??」という状態。之路は受身だし、話は長くなるし、脇キャラ天野氏より目立ってるし(一部の方にはそっちのほうが好きという方もいらっしゃるし)。あ、もともと之路は攻めの予定でした。何処で転んで天野が生まれたのかは覚えてません(笑)。
そしていつのまにかシリーズ名までついてしまいましたね。ちなみに≪bromista≫というのはイタリア語で「ジョーカー」という意味です。誰が誰にとっての切り札になるかはわかりません。気づいたら逆転してる可能性も……ふふっ。
何はともあれ、続けられるところまで続けてみようと思っています。
どうぞこれからもご贔屓に。
さてさて下に続く文章はRyanの中では『蛇足文』なのです。
天野氏の職業についての疑惑をちょこっと解消しようかと思ったらよけいに罠を広げてしまったというもの。実際にばらすのはこの後続く『運命』ですもの。ほほほほほ(鬼)。
興味のある方はぜひ『運命』も覗いてみてくださいませ。
ではでは。








夜明け時



 夜明けを過ぎてからまだ半時。多くの人々は未だに安らかな眠りを欲しているに違いない。
 カーテンの隙間から見える窓の外を見るともなしに見やりながら、天野は指で挟んでいた煙草をゆっくりと口元へ運んだ。
 肺の中に入ってくる久々の感触に眉を顰めながらも、それを吐き出す行為を飽くことなく繰り返していた。
 煙草から離れてずいぶん時が経つ。喫煙当時も好んでいたわけではないが、今はなお更不味く感じる。
 それでも煙草に手を出したのは、この荒れ狂った感情を止めるストッパーが他になかったからだ。尚貴の置き土産を勝手に拝借し、いくらか不足していた一箱がすでに終わろうとしてる。
「…………」
 先ほどから天野の意識は寝室で眠る、自分よりも一回り近い年下の少年に向かっていた。
 手違いとタイミングで距離が開き、ようやく取り戻せた愛しい相手。その寝顔に苦痛は見られず、ただ穏やかに休息をとっていた。艶やかな雰囲気をすっかり消してしまった年相応のそれに、天野が静かに笑みを浮かべたのはつい先ほどのことだ。
 自分のベッドで眠る之路を思い出し、天野は少しだけ表情を和らげる。
 恋人――そう呼んでいいのかははっきりとしていない。お互いにこれといった言葉もないまま、感じ取るものだけで成り立った曖昧な関係。
 蒼の店の顔なじみに始まり、第三者を原因に体の関係を持った。そして今、なし崩しに二人の仲が出来上がろうとしている。




 見知らぬ相手からの酒は飲めない。そう言い放つ人間はどれだけいるだろう。しかも、それをはっきりと意思表示するのが未成年のオコサマだというのだ。
 天野の歳になると、貸し借りで成り立つ人間関係が存在する。そこには最初自分が余裕を持たせることで、相手の心理を上手く掴もうという魂胆が見え隠れするものだ。
 警戒していたのか、それとも他人との距離をとりたかったのか、今でも天野は判断できかねる。
 案の定天野からの申し出は拒絶された。ならば、自分に興味を持たせればいい。気まぐれで起こした行動は功を奏し、翌日に之路の足を運ばせた。
 時間に決まりのない待ち合わせは、枷とならずに二人を引き合わせる。時には天野が先に到着をしてカウンターに陣取り、蒼に複雑な顔をされることもあった。
「遊び?」
 カウンター内からの小さな問いかけに天野は眉尻を上げる。見やると真剣な顔の蒼がまっすぐに見つめていた。
「そう見えるか?」
 だから、天野も正面から視線をぶつけた。端から疑問に思われない程度の沈黙が落ち、やがて蒼が小さく溜息をつく。
「……なんか複雑」
「興味を持たせた本人がよく言うよ」
「だって、貴方が聞いてきたんじゃない」
 たまたま出入りした会社の人間が噂をするほど注目されていた高校生。未成年に酒を出すのかと責任者である蒼に問い詰めると、あっさり彼は答えたそうだ。
「弟達と変わりないから飲ませている、ね」
「一応保護者代わりしてるから。ユキにはこの席以外で飲まないように言ってあるし、僕がいない日は出入りしないように言ってある。やばいものは出さないよ」
「当たり前だ」
 最初は純粋な好奇心だった。それがこうして日を空けずに通う自分がいる。
「――高校生にも、いろいろあるんだよ」
 濁された言葉の意味を、天野は日を変えて知ることになる。
 出会って、一週間目にその機会が訪れた。
 天野と之路が話すきっかけになった輩が店に姿を現した。蒼が目を光らせているのを知っていたのだろう。彼はわざと自分の連れを蒼に任せ、他のバーテンを抱きこんだ。自分の欲望のために。
 蒼から連絡が入り、店に駆けつけたのと村来が之路を抱えたのはほぼ同時だった。抵抗もできずにいる之路に、天野は胸の中にある黒い感情を認めた。
 ――あれは俺のものだ。
 今まで興味本位で近づいていたのが嘘のように、之路に対する権利を主張する自分がいる。
 そして、それを否定する要素もない。
 認めてしまえば、天野の行動は速かった。村来を突き落とすために、わざと之路にどちらをとるか選ばせたのだ。
 之路が男を嫌っていること、何より天野に対するテリトリーの軟化に自信があった。
 大人しい之路を抱き上げた天野は、村来の刺すような視線を真っ向から受け止める。このとき釘を刺して置けばよかったと思うのは後のことだ。
 自室のベッドを之路に提供し、天野は蒼から事の次第を聞いた。金を握らされたのは入ったばかりの新人で、自分の監督不行きだったと蒼がしきりに謝る。それに対して口を開こうとしたとき、之路の変化に気がついた。
 拒絶の言葉とともに、魘されているのが知れる。蒼にそれを告げると、慌てて様子を見てくれと急かされた。
 言葉の端から推測できる之路の過去に、天野は言葉を失くした。蒼が濁した言葉の先を知った天野は、夢の中までも之路を捉える悪夢と、その悪夢を与えた男達に対する怒りを覚える。
 そして、目を覚ました之路の怯えにも腹が立った。
 今思えば、自分以外に之路を縛るものに嫉妬していたのだろう。大事にしようという意思が隠れてしまったのだ。
 感情のままにその細い身体を開かせ、貪欲に之路を抱いた。泣かせても喘がせても足りず、之路の意識がなくなるまで支配し続ける。
 この征服欲を後悔したのは翌朝のことだ。腕の中で身動ぎする存在に天野は目を覚まし、之路の青白い顔色に愕然とした。
 男達と変わらない行為を強いたという事実に天野はただ溜息しかつけない。自分もまた怯えられる存在になったのだと思うと、こうして隣にいることさえ罪なような気がした。
 之路との微妙な関係は粉々に壊れたと天野は覚悟をした。
 そう思いながらも未練があったのも確かだ。
 出かける準備をし、眠り続ける之路の唇を奪うことでそれは更に増す。
 之路は天野から連絡を取るのを嫌がるかもしれない。拒絶を聞きたくないなんて、我ながららしくないと思う。だが、それが偽りのない本音だった。
 悩んだ末に天野は携帯電話の番号を書いた紙を残した。
 この日から天野は躍起になって仕事に熱中する。之路に対する罪悪感から少しでも目を逸らしたかったのだ。それが逃げだと知っていても。
 もともと不規則な仕事は輪をかけて夜中まで続き、蒼の店に近づくこともできなくなった。
 しかし、天野の脳裏からは最後に見た之路の表情が離れることはなかった。




 窓の外に転じていた視線を部屋の中へと移す。その時視界に入った茶封筒に天野は眉を顰めた。
 一つは蒼が集めた村来に関する書類。もう一つは先ほど蒼の代理として尚貴が持ってきたものだった。それぞれ重量はないが、書かれている内容は繰り返し読もうと思わないほど忌まわしい。
 之路が村来に近寄られたあの日、薬が使われていたらしいと蒼から報告を受けた。皮肉なことに、その薬は天野が尻尾を掴もうとしていたものだ。
 最近都内で流行りだしたとされる非合法の薬の出所を、天野は上層部からの指令で突き止めるために動いていたのである。
 情報集めを含め一月かかった調査も最終段階に入り、残すは後始末のみ。上層部へ報告しに行きかけた天野を呼び戻したのは一本の電話だった。
 ――之路が攫われた。
 尚貴の淡々と報告する声に天野は苛立ちを抑えられなかった。感情のままに自室のデスクを叩き、落ち着かせようとするが逆効果でしかない。
 職権乱用という言葉は浮かばなかった。
 こうしている間にも之路に危害が加えられるかと思うとなりふり構っていられない。
 救われたのは、蒼が之路を乗せたタクシーのナンバーを覚えていたことだ。上層部との会議で身動きができない自分の代わりに蒼に動かせた。
 会議が終わるのと蒼からの連絡はほぼ同時だった。使える情報網をすべて駆使したというのに、之路の居場所を掴むまでに時間がかかっている。
 之路に対する危害が心配だった。それを更に加速させたのは蒼が仕入れた情報である。タクシーを飛ばす間に目を通した天野は、抑え切れないほどの感情を抱く。
 調べさせたのは村来の素性だった。親に影響された、典型的なドラ息子。それが結果的に之路の過去へとつながる。
 親の権力で物を言わす無法者だったこと。
 之路の親が依頼した家庭教師は村来の遊び仲間だったこと。
 彼らが当時自慢げに話していたとされる噂話。
 そして、之路に対する執着心のこと。
 村来が過去の人物にご執心だったのはこの界隈でも有名だったらしい。蒼のまとめたそれには、之路と同じ年代の少年に手をつけては捨てるということを繰り返していたとある。それが本人を見つけることで男の視線は之路に向けられることになった。
 蒼の店は一見お断りという雰囲気があるため、常連の伝を探しての来店となったわけだ。逆恨みに近いが、村来を紹介した男に対しても何らかのことをしてやりたくなる。
 怒りに震える手で拳を作り、深い呼吸でそれをやり過ごす。今すべきことは之路を救い出すことなのだ。
一刻も早くあの身体をこの腕で抱きしめたかった。




 報告を受けたとき、自分でも呆れるほど平静さを保てなかった。
 それだけ之路にやられていたということだろう。
 感情だけで突っ走れるほど若くはないというのに、後先考えずに行動をしていた。
 自分の行動を思い出すと、天野は己を自嘲するしかない。明日以降、上役への言い訳が大変だろう。
 短くなった煙草を灰皿に押し付け、火種を消した。深く煙を吐き出しながら尚貴の置き土産を手にとると、それはすでに空。天野は深い溜息とともに箱を丸めると、ゴミ箱へと放り投げた。
 カン、と思いがけず甲高い音が静かな部屋に響く。
 耳障りな、と思う前に何かの音が重なった。微かに鈍いそれがした方向を見やり、天野は之路の目覚めを知る。
 目覚めたものの身体が動かなかったらしい。それが低血圧によるものとは限らないことに思い当たり、口元が緩む。
 他人からの行為に慣れていそうで、己以外を恐がる警戒心の強い猫。それを手なずけるには、本来の好奇心をくすぐることが手っ取り早いだろう。
 過去というハードルを越えさせて、今という現実を見せ付けてやりたい。
 彼の意思で受け入れさせたい。
 我ながららしくないとは思うが、思考が自然に動いてしまえば本物だろう。
 之路への感情を認めてしまった今、恐いものなど何もない。
 あとは、之路に恋愛感情を植え付けるだけだ。そう長いことはかからないだろうことも予想できる。
「……逃がすつもりもないけれどな」
 そう呟くと、天野は之路がいる寝室へと足を向けた。




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