朔
何時の間にか降りだした雨が慈悲なく全身を濡らしていた。
騙し騙し動かしていた足が棒のように感じられる。
「―――――――…………っ」
背中を壁に預け、ずるずると崩れ落ちた。
身体のあちこちが痛い。
喉がひりひりとする。
季節はまだ冬を通り越したばかりで寒いはずなのに、全身が燃えるように熱い。
吐き出す息は浅く、何よりも重い。
それでも、その場から動こうとは思わなかった。
動けばそれだけ身体の訴える痛みが酷くなる。
いや、それ以前に動かすだけの体力も気力も残っていない。
動かしたからといって、何があるのだろうか。
よろけながら立ち上がり、膝をつき、そしてまた歩き出す―――そんな行為に何の意味があるというのか。
ふいに襲った吐き気に勝てず、吐瀉する。
すでに何度か戻していたせいか、込み上げてきたのは胃液ばかり。
あまりの苦しさに涙が浮かぶ。
吐き出すものが無くても、未だ内に残る違和感が堪らない。
―――――何もかも、どうでもいい。
今のこの身で何かを考えること自体が無駄だと思った。
いっそのこと、ここで意識を失ってしまえればいい。
そうすれば、あれこれと巡らす思考を止めることができる。
全身に走る痛みも和らぐかもしれない。
そう、考えて。
瞳を閉じかけた瞬間、呼びかける静かな声音があった。
「大丈夫?」
同時に当たる雨が止む。
心配を含んだそれに之路は視線を向ける。まだ明けきらぬ闇の中で、一人の青年が之路を見下ろしていた。
その手に握られた傘が、之路の上へと差しかけられている。
辺りにあるネオンが邪魔をして、彼の表情が読み取れない。それが不安で之路はつと眉を顰める。
「怪我は?」
窺うような問いに答える気にはならず、顔を背ける。だが目前の青年はいつまでもこちらの反応を待ち望んでいた。
それに答える気もなく、無視する形で立ち上がる。
だが、歩き出す間もなく之路はその場に沈み込んだ。
「うわ、ちょ、ちょっと……っ」
なぜだか焦る声が聞こえる。
差し伸べられた手を払うこともできず、之路は意識を手放した。
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||