書き手:咲坂つばき

預かり手:Ryan





思い出はスタート


 北里 悠太(きたざと ゆうた)は、
「今日も一日、疲れたなぁ…」
 と、小さく息を付きながら、マンションの下に設置されてある、ずらりと並ぶ郵便受けの前に立った。
「特にたいした手紙なんて、きてないだろうけど」
 独り言を言いながら、自分の部屋番号の書いてある郵便受けを開けた。

『 私立成南男子学園 第73期生 3年A組 同窓会ご案内 』
 

 悠太は、郵便受けの中にある、手紙の束の一番上にあるハガキを見て、ドキリとした。
「成南(せいなん)の同窓会」
 私立成南男子学園。それは、悠太が中学から6年間通った学園だった。昭和初期に創立した成南は、文武両道を教訓にかかげた県内では有名な進学校の1つだ。
 そして、そんな成南男子学園は、今の悠太の職場でもあった。
 昨年大学を卒業した悠太は、教師という職に付き、母校である成南で数学教師をしている。
「今も学園で生活している僕にとっては、同窓会って、なんだかピンとこないんだけどな…」
 ボソリとそんなことを言いながら、悠太はハガキに書かれてある、同窓会の日時や場所に目を通す。そして、一番下にある、幹事の名前を見て、思わず目を見開いた。
「………、えっと、とりあえず、こんな所に立っててもあれだし、部屋に入ろう」
 悠太は、動揺している自分を落ち着かそうと大きく息をした。そして、同窓会の案内状をギュッと握り締めながら、マンションの3階にある自分の部屋へと駆け上がった。
 いつもならエレベーターを使うのだが、今は、あの小さな箱の中でジッとしている自信がなくて、階段を使ってしまった。それもあってか、悠太は、妙に息が上がってしまい、部屋に入るなり冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを出すと、それを一気に飲み干した。
「はぁ…。落ち着け」
 自分にそう言い聞かせながら、悠太は、ミネラルウォーターを飲んでいる間も、ずっと握り締めていた同窓会の案内状を、もう一度見つめた。
 握り締めていたせいで、少しシワのついてしまった案内状の一番下に書かれてある名前から、悠太は目が離せなかった。
「幹事、矢橋 慎(やばし しん)。何度見ても、矢橋の名前だ」
 矢橋 慎は、悠太にとって特別な存在だった。それは、例えば、悠太は3年のとき、生徒会長をしていた。その時の副会長が矢橋だった。成績でも、悠太と矢橋は、常に1位2位を争う仲だった。そして、悠太にとって矢橋が、特別な存在と言える最大の理由は、悠太が矢橋に対して、特別な感情を抱いていることだった。
「周りには、気の合う会長と副会長だと思われていたけど、僕もそれを演じてきたけど、心の中では、ずっと矢橋のこと好きだったんだよな」
 悠太は、同窓会の案内状を持ったまま、寝室へと向かった。そして、ベッドの横に設置している棚に飾ってある、フォトフレームを見つめる。
 フォトフレームの中の写真には、成南の制服である濃紺のブレザーに身を包んだ自分と矢橋がいる。卒業の日、最後の記念にと、一緒に撮った写真だった。
 悠太は、そっと目を閉じた。そして、写真を撮ったときのことを思い出した。


 5年前の3月。その年は、暖冬の影響もあって3月初旬なのに、気の早い桜が咲き始めていた。
 長い卒業式を終えた後、悠太は自然と一番思い出のある生徒会室へと足が向いた。
「矢橋とは、クラスも一緒だったけれど、やっぱり生徒会での思い出の方が多かったからな」
 学校行事や生徒総会のことを思い出し、悠太は口もとを緩めた。
 卒業式の後、生徒会室に来たのは、矢橋も思い出のこの部屋に来るかもしれないという期待もあったからだった。
 そして、そんな期待に矢橋は応えてくれた。
 悠太が生徒会室に入ってすぐ、矢橋は現れた。
「北里もやっぱりここに来たんだ。なんだか、そんな気がしてたんだ」
 そう言って笑った矢橋の顔を、悠太は今でも覚えている。
 学園でも、成績優秀、スポーツ万能、そのうえルックスも良い矢橋は、学年を問わず人気があり、みんなから信頼されている副会長だった。
 今更ながら、どうしてそんな矢橋を差し置いて、成績はともかく、他のことは、平凡な自分が生徒会長をしていたのかは、悠太にとって謎だった。
 卒業式のせいか、いつもの矢橋より格好よく見えた悠太は、思わず矢橋から目をそらす。
 けれど、今日、この学校を卒業すれば、もう会うこともなくなるんだと思うと、悠太は自分の想いを伝えたいと思った。
 今、生徒会室には僕たち2人だ。最後に自分の想いを伝えたい。ずっと良い友人として付き合ってきたけど、最後に本当の気持ちを知って欲しい。
 強くそう思った悠太は、一度大きく息をして、矢橋を真っすぐに見た。
 思い出の生徒会室を見回っていた矢橋は、自分に視線を向けた悠太に気がつき、
「ん?」
 と、首を傾げた。
「あ、…いや、えっと…。そ、そうだ、最後の記念に一緒に写真をとらないか?」
 矢橋に対する、特別な気持ちを伝えたいと思った悠太だったけれど、矢橋と視線が合った瞬間、悠太は自分の気持ちを無理やり抑えた。
 本当は好きだと言いたかった。けれど、その言葉を伝えられなかったのは、悠太がずっと想いを寄せている矢橋には、すでに『恋人』と言える存在がいたからだ。そんな矢橋に、自分の想いを伝えても、迷惑なだけだ、と、とっさに判断した悠太は、結局、最後の記念に一緒に写真を撮ることが、精一杯の告白になった。

 悠太は、そっと目を開けると、高校時代の思い出から、現実へと戻ってきた。
「結局、僕は最後まで気の会う友人を演じたんだよな」
 握り締めている同窓会の案内状を、悠太は、フォトフレームの横に置くと、小さく息を付いた。
 卒業して5年。矢橋への想いは良い思い出だと思っている。せっかく静かに眠らせている想いを、わざわざ起す必要はない。
「さ、今度のテストの準備をしないと」
 悠太は、自分に言い聞かせるように、一人そんなことを言い、無理やり昔の思い出を頭の隅に追いやった。



 同窓会の案内状がきて2ヵ月後。
 矢橋への想いを、このまま眠らせておきたかった悠太だったけれど、同窓会当日、悠太は、同窓会の会場である小洒落たカフェの前にいた。
「ただ、ちょっと見たかっただけだ。高校を卒業して5年。大人になった矢橋を、ちょっとだけ見たかったんだ」
 そんな言い訳を、自分に言いながら、悠太は『本日貸切』と書かれた札が掛けられてあるドアに手をかけた。
 一目見るだけだ。だって、昔好きだった矢橋が、どんな大人になったのか、やっぱり興味がある。決して昔の想いを呼び起すためじゃない。
「案外、すごく老けてて100年の恋も一瞬で冷めるかもしれないからな」
 格好よかった矢橋が、老けている姿は想像も出来ない。しかも、たったの5年でそんなに変わるわけもないだろうけど…。
 悠太は、自分への言い訳に、自分でつっこんで、
「………。僕は、諦めの悪い人間だよ…」
 と、呟いた。
 そう、同窓会の案内状がきた時から、矢橋への想いは鮮やかに蘇ってしまったのだ。
 矢橋に想いを寄せた学園で教師となって生活してる悠太は、あの日から、学園の中で、矢橋との思い出を思い出すことが多くなっていた。
「この同窓会の案内状がくるまでは、時々は思い出してたこともあったけど、最近はひどいもんな」
 さすがに授業中に思い出に浸ることはないけれど、ふとしたことで、心の隅に眠らせていたものが目覚めてしまうのだった。
 だから、矢橋を一目見たら、少しは落ち着くだろうと考えた悠太は、同窓会への出席を決めたのだった。
 悠太は、ドアを開ける前に、一度、大きく深呼吸をした。そして、そっとドアを開けた。
 悠太がドアを開けた瞬間、わっと、歓声が上がった。突然の声に、悠太は戸惑う。
 え? 僕、何かおかしなことした?
 慌てて自分の身だしなみをチェックした悠太に、
「北里生徒会長!」
「相変わらず、可愛いなぁ」
「ホント、ぜんぜん変わってないじゃないか」
 と、同窓生が口々に声をかけながら集まってきた。
 可愛い? 
 自分に声をかけてくれたのだから、自分への言葉だろうけど、『可愛い』という言葉に悠太は首を傾げる。
 確かに僕は、ゴツくはないだろうけど、けっして可愛いという形容詞が似合うような男ではない。どこにでもいる、いたって普通の顔立ちだし、身長だって、人並みにはある。
 誰だ、可愛いなんて言ったのは?
 悠太は、思わず眉間にシワを寄せながら、集まってきた同窓生の顔を一人一人見回した。
 そんな悠太に、
「久しぶりだな、ホント、相変わらず可愛いな」
 と、追い討ちを掛けるように後ろから声がかけられた。その声に、悠太は、ドキリとした。
 卒業して5年。その間、まったく会ってもいないのに、この声は誰の者か、振り向かなくても分かった。
 矢橋だ。振り向けば、矢橋がいるんだ。
 悠太は、鼓動が速くなるのを感じながら、それでも、平然な顔を装った。そして、
「なんだよ、可愛いって?」
 と、振り返った。
 振り返った悠太の瞳には、学生時代に想いを寄せた矢橋が、少し大人っぽくなった表情で笑っていた。
 矢橋、ちょっと顔が大人になったな。学生時代と違って、社会人になった矢橋は、昔より頼りがいがある男、というイメージになっていた。
「知らなかったのか? 学生時代、お前は密かに『可愛い』ってモテてたんだぞ。だから、生徒会選挙だって、俺よりお前を生徒会長にしたいって奴が多かったからな」
「初耳だよ、そんなの」
「お前を生徒会長にすれば、少なくとも毎週ある全校朝礼で、お前の姿を見ることが出来るからな」
「な、なんだよそれ」
 矢橋の言葉に、眉を顰めた悠太だったけれど、5年前と同じように、級友として話が出来ていることにホッとしていた。
「それより、こんな入り口じゃなんだから、もっと奥でゆっくりしろよ。飲み物はカウンター、食べ物も勝手にとって食べていいからな」
 同窓会の幹事である矢橋は、テキパキと会場の案内をすると、
「俺は幹事としてまだやることがあるけど、後でゆっくり話そう」
 と、悠太の肩をポンと叩いた。
「あ、ああ、そうだな」
 悠太は笑顔で返事をしながら、矢橋が肩に手を乗せた事で、自分の体温が上がったことを感じていた。
 矢橋に触れられただけで胸が締め付けられそうになる。
 悠太は、店の入り口で、幹事としての仕事を手際よくしている矢橋を目で追いながら、店の奥のテーブルについた。
 悠太の付いたテーブルには、クラス委員をしていた岡林と、生徒会体育委員をしていた成田がいた。
「今、仕事の話で盛り上がってるんだ。北里は、何してるんだ?」
 隣に座っている成田が、興味津々といった表情で悠太に質問をする。
「あ、俺もそれ興味ある。成績優秀だった生徒会長が、どんな職業についたのか。ちなみに、俺は、菓子メーカーで営業マンやってるんだ」
 悠太とはテーブルを挟んで向かいに座っている岡林が身を乗り出してくる。
「営業マンってさ、結構、大変なんだ。毎日、いろんな店回って、頭下げて…。でもさ、自分が売り込んだ商品が店に並んでるの見たら、なんか嬉しくなるんだよな」
「へぇ、そうなんだ」
 悠太は、当たり障りのない相槌を打ちながら、矢橋がどんな職に付いたのか知りたくなってしまう。けれど、突然、そんな質問をするわけにもいかず、
「成田は?」
 と、成田へと視線を向ける。
「俺? 俺は、実はまだ学生なんだ」
「え? 学生?」
 高校を卒業して5年。普通なら就職をしているはずだ。
「大学院に進んでるのか?」
「ははは、そんなカッコイイとこ行ってないよ。大学2年のとき、休学して2年間アメリカに行ってたんだ。だから、まだ、気楽な学生だよ。で、北里は?」
 2年間アメリカ。充分カッコイイんじゃないのか?
 そんなことを思いながら、悠太は、
「僕は教師をしてる」
 と、答える。
「教師?」
「うん。成南で数学教師をしてるんだ」
「成南でっ!?」
 悠太が母校で働いていることに、級友達は驚いた。けれど、
「でも、生徒会長までしてた北里だもんな。成南の教師、似合ってるかも」
 と、なぜか悠太が教師をしていることに、すぐに納得していた。
「どう、今の成南は?」
「別に、僕たちが通っていた頃と変わりないよ。僕たちが習った先生方も、何人も現役で残ってるからね」
「そっか、懐かしいな」
「ホント、久しぶりに行ってみたくなるよな。それで、お前の授業受けてみたい」
 岡林が楽しそうに笑う。それに頷きながら、成田が、
「北里、人気教師だろ?」
 と、僕に問いかけた。
「え?」
「あ、絶対そうだろ。生徒会長としても人気あった北里だもんな。教師になっても、絶対人気ある」
 妙に自信たっぷりに言われて、悠太は、どう答えていいのか分からず小さく笑う。
 確かに、生徒から嫌われてはないと思うけど、人気があるかどうかなんて分からない。
 悠太が、成南での自分を思い出していると、
「生徒会長だった北里は教師。副会長だった矢橋は、大手出版会社の期待のホープ。なのに、成田はまだ学生、かぁ…」
 と、岡林が成田をからかった。
「うるさいよ」
 岡林の言葉に、成田は眉を顰めた。けれど、悠太は、そんな成田よりも、矢橋の情報が気になる。
「大手出版会社?」
「ああ、さっき来たとき、少し話したんだけど、いろいろと有名な本や雑誌を出版してる大きな会社らしいぞ。なんか、カッコいいよな」
 岡林が、まだ入り口付近で、幹事の仕事をしている矢橋に視線を送る。それにつられるように、悠太も矢橋を見た。
 出版会社に勤めているんだ。出版社の仕事の内容は、よく分からないけれど、きっと楽しく働いているんだろうな。
 悠太が、そんなことを思いながら、矢橋の働いている姿を想像したとき、
「慎ちゃん、もう幹事の仕事は程々にして、ゆっくり座りなよ」
 と、少しトーンの高い声が、悠太の横を通り過ぎた。悠太は、その声に、ギクリとした。
 この声は…。
「佐倉の奴、今も矢橋にベッタリなんだな」
「でも、相変わらず男とは思えないくらい可愛い顔してるよな」
 岡林と成田は、この高い声の持ち主を目で追う。けれど、悠太は一人下を向き、ギュッと目を閉じた。
 岡林と成田が見ている、この高い声の持ち主、佐倉 泉(さくら いずみ)は、同じ男とは思いないほど体の線は細く、顔立ちも小さい。そのうえパッチリとした大きな瞳を持っていて、高校のときから、『可愛い』とモテていた。
 悠太は、一度は下を向いてしまったけれど、チラリと佐倉へと視線を向けた。 そんな悠太の視線の先の佐倉は、
「慎ちゃん、働きすぎ。ちょっとは自分も楽しみなよ」
 と、矢橋の服の袖を可愛く引っ張っていた。
 ホント、相変わらず可愛いと思う。高校時代から、クラスのマスコット的存在で、みんなに可愛がられていた。
 僕なんかより、ずっと『可愛い』という形容詞が似合っている。そして、矢橋の隣にいることも…。
 そう、この可愛い佐倉こそ、矢橋の『恋人』なのだ。
 男子校だった成南では、同性同士の恋人を持つ学生は少なくなかった。悠太が想いを寄せる矢橋もその一人だった。
 矢橋と佐倉の関係が、いつ始まったのかを悠太は知らなかった。自分が矢橋を好きになったときには、もう、2人が『恋人』という関係は、学園の公認になっていたのだから。
「あの2人、今も仲が良いんだ?」
 声が震えそうになるのを、なんとか抑え、悠太は平然を装う。
「みたいだな。北里は遅れてきたから見てないだろうけど、ここへも2人一緒に来たからな」
「そ、そうなんだ」
「ああ、仲良く2人で。もしかして、一緒に住んでたりしてな」
 岡林がおどけて言った言葉が、悠太の胸に突き刺さった。そして、タイミングよく、矢橋と佐倉が楽しそうに笑っている光景が人越しに見えて、悠太は、思わず、ガタンっと席を立った。
「北里?」
 突然立ち上がった悠太に、岡林と成田が首を傾げる。
「あ、えっと、ちょっとお手洗い」
 悠太は、「ゴメン」と、2人に謝りテーブルから離れた。
 矢橋と佐倉が仲良かったことなんて、ずっと知ってたことじゃないか…。なのに、どうして、今更こんなにショックを受けているんだろう…。
 悠太は、トイレに通じる通路までくると、誰もいないことを確認して、ギュッと胸を押えた。
「……、来るんじゃなかった」
 大人になった矢橋を一目でいいから見たい、なんて思うんじゃなかった。帰ろう。これ以上、ここにはいたくない。5年前から分かっていたことだけど、矢橋と佐倉が仲良くしているところは、正直見たくない。高校時代は、どうしようもなかったとはいえ、よく平然なフリができたものだと、自分でも感心してしまう。人間、歳をとるともろくなるいうけれど、それは本当だ。今の僕には、佐倉に笑いかける矢橋を見ているのは、とても辛いことだよ…。。
「同窓会なんて来るんじゃなかった」
 矢橋への想いは、ずっと眠らせておくべきだったんだ。
 同窓会へ来たことを後悔しながら、悠太は熱くなった目じりを押える。
 大丈夫。明日になれば、普通の生活に戻るだけだ。また、この想いは、眠らせばいい。
 自分にそう言い聞かせながら、悠太は、出口へと向かった。そして、入り口付近にいた、このカフェのスタッフを捕まえると、
「悪いけど、あそこのテーブルの人達に、「急用が出来たから帰った」と、伝えてもらえるかな」
 と、先ほどまで自分が座っていたテーブルへメッセージを頼んだ。
 会場に来て、まだ30分ほどしか経っていない。今帰るのは、かなり失礼だと思う。一緒に話していた岡林や成田、そして、幹事である矢橋に何の言葉もなく帰るのは、礼儀がなってないと分かっているけど、でも、もうこれ以上、ここにはいたくないんだ。
 悠太は、最後に、もう一度矢橋へと視線を向けた後、誰にも見つからないように、静かに店を出た。



 同窓会から数日後。
 悠太の生活は、いつもと変わらない日々に戻っていた。朝、成南へ出勤し、そして授業をする。放課後は、数学準備室で資料をまとめたり、生徒の質問に答えたり、と、以前と変わらない生活を送っていた。けれど、それは、外枠だけのことで、悠太の内面は、ずっと落ち着きのない状態になっていた。
「矢橋の顔が頭から消えてくれない。同窓会なんて、行くんじゃなかった」
 一目大人になった矢橋を見たい、なんて欲を出してしまったばかりに、眠っていた想いは起きてしまうし、矢橋と佐倉が昔と変わらず仲が良いところも見せ付けられた。
「はぁ…」
 こんなんじゃ、授業にも集中できない。そのうち生徒から苦情がきそうだ。
 悠太は、数学準備室の窓から、放課後のグラウンドを眺め、今日、何度目かのため息を付いた。その時、数学準備室に設置されている電話が鳴った。
「はい、北里です」
 電話の相手は、事務の人だった。
「北里先生、お客様がお見えです。正面玄関までおいでください」
 僕に客? 誰だろ?
 職場に誰かが訪ねてきたことなんてほとんどない。生徒の父兄? っていっても、僕は、まだ新米教師でクラスを受け持ってもいないから、父兄が尋ねてくることもないと思う。いったい誰だろう?
「分かりました。すぐに行きます」
 誰かは分からないけれど、自分を訪ねてきたのだから、とにかく行ってみよう、と、悠太は、放課後の廊下を足早に正面玄関へと向かった。
 けれど、悠太が正面玄関へ行ってみると、お客様らしい人はいなかった。数人の生徒が、
「帰りにどこか寄ってく?」
「俺、塾があるんだ」
 などと、これからのことを話していた。
「あ、北里先生」
 キョロキョロと玄関付近を見ている悠太に、先ほど内線電話をしてくれた事務員が、声をかけてきた。
「さっきまで、ここにいたんですが、自分はここの卒業生だから少し校舎を見てきたいと言われて、勝手に…」
 事務員は、困ったように校舎の奥を見る。
「卒業生?」
 そういえば同窓会の日、岡林や成田には、ここで教師をしていることを話した。もしかして、どちらかが、懐かしくなって来たんだろうか? 
「分かりました。少し校内を探してみます。卒業生なら、学園内のことは分かってると思いますし、迷う心配もないですよ」
 悠太は、困った顔をしている事務員に笑いかけた後、
「さて、どこを探そうかな」
 と、腕を組んだ。
 岡林か成田なら、僕と同じ3年A組だったから、まずは、教室を探してみるか。けど、どちらかは分からないけど、僕を呼んだくせに、どうして勝手に行動するかな?
 見つけたら苦情の1つも言ってやろうと思いながら、3年A組の前に来た悠太だったけれど、そこには誰もいなかった。
「教室の中も、もう誰もいない」
 岡林と成田って、何かクラブに入ってたかな?
 5年前の記憶を思い起こしながら、悠太が来た道を帰ろうとした時、信じられない人物が悠太の瞳に映った。
「や…矢橋っ!?」
 悠太は、自分が幻を見ているのかと思い目を見開く。
 間違いじゃない。矢橋だ。どうして矢橋がここに?
 突然の矢橋の登場に、悠太は、その場に立ち尽くしてしまう。そんな悠太の瞳に映っている矢橋は、まだ悠太には気付いていない様子で、廊下の向こうから、懐かしそうに教室を覗いたり、グランドを見たりしながら近寄ってきていた。そして、ふと顔をこちらに向けた。
「あ、いた」
 悠太に気が付いた矢橋は、右手を軽く上げて見せる。そして、悠太の目の前に来ると、
「正面玄関でお前のこと呼んで貰ったんだけど、なんか懐かしくなって、ウロウロしてた」
 と、笑った。笑顔の矢橋とは対照的に、悠太は、まだ何が起こっているのか理解できていなくて、ただ何度も瞬きをする。だから、ようやく開いた口から出た言葉は、
「そ、そうなんだ。…って、違う。なんで? どうして?」
 と、全く意味の分からないものだった。悠太は、自分で、何を言ってるんだと自問しながら小さく首を振る。
 落ち着け。落ち着け。
 心の中で、自分に言い聞かせていると、
「3年A組か、懐かしいな」
 と、矢橋は、悠太の横で教室を覗いた。
「教室にも思い出はいっぱいあるけど、でも、俺達はやっぱり、生徒会室だよな」
 矢橋は、「行こう」と、悠太の背中を押す。
「え? や、矢橋?」
「会長と副会長の思い出話でもしよう」
 矢橋は、戸惑う悠太を強引に押し、生徒会室へと向かう。
「今の会長と副会長に挨拶して、俺達の凄さを教えてやろう」
 楽しそうに、昔を思い出しながら、矢橋は生徒会室のドアを開けた。けれど、生徒会室の中には、誰もいなかった。
「あれ? 誰もいないぞ?」
「もうすぐ期末テストに入るから、活動を休んでるんだろ」
 矢橋は、誰もいない生徒会室にスタスタと入ると、5年前座っていた副会長の席につきながら、
「そっか、そんな時期か。社会人になると、そういうこと忘れるな」
 と、笑う。そして、生徒会長の席を指し、「お前も座れよ」と言う。
「え? ぼ、僕はいいよ」
 悠太は、小さく首を振ると、
「そ、それより、どうしてここに? まだ、仕事の終わるような時間じゃないだろ?」
 と、尋ねる。
 学校では、生徒が帰る時間になっているけど、一般の会社では、まだ、終わるような時間じゃないはずだ。
 悠太がチラリと腕時計に目を向けていると、
「仕事、今日は会社の外であってさ、今、その帰り。もう、会社に帰っても、そんなにすることないから。それより、どうして、じゃないだろ」
 と、矢橋が腕を組みながら、悠太を見据えた。その表情は、先程までの優しい矢橋ではなくて、悠太は、思わず顎を引いた。
「同窓会の日、どうして途中で帰ったんだよ? 後で話そうって言っただろ。なのにいなくなってるんだもんな。だから、お前と話してた成田たちに、今のお前の情報を聞いて、ここに来たんだよ」
 矢橋は、「まさか、母校で教師をしてるとは思わなかった」と、付け足しながら、
「で、どうして急に帰ったんだよ?」
 と、悠太を問い詰める。その質問に、悠太は矢橋から視線を反らした。
 どうして、って、それは、矢橋と佐倉が仲良くしているところを見たくなかったからだろ。でも、そんなこと、絶対に言えるわけがない。
「ゴ、ゴメン、悪かったよ。急に用を思い出して…」
 苦しい言い訳だと思いながらも、一応、その場をとりつくろう。でも、矢橋がそれで納得するわけもなく、
「急用って?」
 と、問い詰められる。
「え? だ、だから、それは…、が、学校のことだよ」
 悠太は、これ以上追求される前に、話題を変えようと、
「で、でも、成南までわざわざ来るほど、何か大切な話があったのか?」
 と、反対に矢橋に質問をした。
 同窓会の日、確かに矢橋に「後で話をしよう」と言われた。それは、悠太にとって嬉しい言葉だったけれど、社交辞令なようなものだと、あえて期待しないようしていたのだった。
 本当に何か大切な話があったのだろうか? そうだとすれば、確かに先に帰ってしまったことは、悪かったと思う。
 悠太が何の話があったのだろうかと答えをまっていると、先ほどまでとは逆に、矢橋が悠太から目を反らせた。
「矢橋?」
「別に、そういうわけじゃないけどさ…」
 矢橋は、生徒会室を見回しながら、ポツリと答えた。そして、黙ってしまった。
 そんな矢橋の行動に、悠太は、自分がどう対処していいのか分からず戸惑う。
 そういうわけじゃない、って、矢橋は僕に話があったからここに来たんじゃないのか? 
 悠太は、黙ってしまった矢橋に首を傾げる。けれど、なんだか、声をかけることは出来ず、しばらくシンとした時間が続いた。
 どれくらい、静かな時間が過ぎただろうか、
「そういえば、卒業式の日、ここで写真撮ったよな」
 と、矢橋が5年前を懐かしむように言った。
「卒業式の後、お互いに思い出のこの部屋を訪れてさ『最後の記念に』って、覚えてるか?」
 矢橋の質問に、悠太はドキリとした。
 忘れるわけがない。社会人になって一人暮らしを始めた今も、その写真は、部屋に飾られてある。
 けれど、悠太は、
「……、そ、そうだったかな? 5年も前だから、覚えてない…けど」
 と、答えた。
 それは、これ以上、矢橋への想いを強くしたくないと思ったからだった。
 そんな、悠太の答えに、
「なんだ、覚えてないのか、冷たい奴だな。俺は、あの写真、今もちゃんと大切にしてるぞ」
 と、残念そうに言った。
「え?」
 矢橋も、あの写真を大切にしてくれているのか? …いや、なに期待しているんだ。高校時代、生徒会の思い出として大切にしてくれているだけだ。決して、僕と同じ気持ちじゃない。
 悠太は、矢橋が2人の写真を大切にしていてくれていることを考えただけで、胸が熱くなっていた。でも、それは、決して、自分と同じ気持ちではない、と、自分に言い聞かせた。
 けれど、そんな悠太に矢橋は、
「俺さ、同窓会の幹事だっただろ。つまり、同窓会をやろうって言い出したのは、俺だったんだけどさ、本当のこと言うと、お前に会いたかったから、同窓会でもやろうかな、って思ったんだ」
 と、悠太の胸を締め付けるような言葉を言った。
「え?」
「なんかさ、大学卒業して、社会人になって1年、いろんな人との付き合いの中で、ふとお前の顔が浮かぶことが多くなってさ、そんな時、お前と最後に撮った写真を見てたら、急に、お前に会いたくなったんだ」
「僕に会いたい?」
「ああ、会社で上司と一緒に仕事したり、同僚と飲んだりしてても、今までの中で、一番気が合ってたのは、北里だったな、って思うことが多くなって、だから、お前に会いたくて、同窓会しようって思ったんだ」
 矢橋の言葉に、悠太は全身が熱くる。そして、ずっと心の中にしまっていた熱い想いを抑え付けていたものが、壊れていくことが分かった。
 矢橋が、僕に会いたかった? 本当に? でも、それは、友人としてってことだよね? 結局、僕は、矢橋にとって、何年経っても友人のままなんだ…。
「な、なんだよ…それ?」
「北里?」
「僕は…、僕は、会いたくなかったよ」
「え?」
 どうしてそんなこと言うんだよ…。どうして、僕をそっとしておいてくれないんだよ…。矢橋が、僕に会いたい、と言ってくれたこと、すごく嬉しいよ。本当に、泣きたいくらい嬉しい。でも、友人として会いたい、なんて言われても嬉しくない。僕の想いとは、全然、違うんだから。それに、また、友達として、時々会おう、なんて言われたら、知りたくない佐倉との仲を聞かされたりするのかもしれない。そんなこと、僕には絶えられないよ。もう、5年前のようには出来ない。
「高校時代、一番気が合ってた? 僕は、一度もそんなこと思ったことない。だって、僕は、ずっと気の合う友人を演じていたんだから」
 今までずっと黙ってきた想いが溢れ出す。
「僕は、矢橋のこと友人なんて思ったことはない。僕は、ずっと、ずっと…っ!!!」
 胸を押さえ、悠太は矢橋に自分の気持ちを叫びそうになった。けれど、寸前のところで、言葉を飲み込んだ。
「……、なんでもない、よ」
 悠太は、矢橋に背を向けた。
「矢橋には、佐倉がいる。そんなこと高校時代から知ってる。だから、矢橋を困らせるようなことは言わないよ」
 今更、もう前のように友人のフリは出来ないところまできてしまったけれど、矢橋を困らせたくはない。
「もう、仕事に戻るよ」
 悠太は、突然の告白に驚いている矢橋を置いて、生徒会室を出ようとした。けれど、ドアに手をかけた瞬間、ガタン、という椅子が引っくり返る音と共に、
「北里っ!!」
 と、矢橋の声が聞こえた。と、同時にドアに掛けた手を力強く掴まれていた。
「…は、離せ」
 悠太は、矢橋の手を振り解こうと弱々しい声を出す。けれど、矢橋は余計に力を込めた。そして、
「えっと、突然のことで、何から言っていいのか分からないんだけど、とりあえず、大きな誤解をしてるみたいだから、それは解かせてもらっていいかな?」
 と、悠太を自分のほうへと振り向かせた。力強く引き寄せられて、悠太は、矢橋に体を預けるような姿勢になってしまう。だから、慌てて、矢橋から放れる。けれど、腕はしっかりと掴まれていて、逃げることは出来なかった。それでも、少しでも矢橋から離れようと、悠太は一歩さがろうとする。そんな悠太に、
「泉のことだけど、俺と泉はなんでもないからな」
 と、矢橋がはっきりと言った。
「え?」
 悠太は、その言葉に一瞬驚く。けれど、
「そ、そんなことないだろ? 学生時代、矢橋と佐倉が付き合っていたことは有名なことで、みんな知ってる。それに、同窓会の日だって、仲良くしてたじゃないか」
 と、反論をする。
 優しい矢橋は、僕を傷つけないようにしてくれてるんだろう? でも、そんな優しさ、いらないよ。こんなに諦めの悪い僕には、むしろガツンと、とどめの一言を言ってくれたほうがいい。
 悠太は、「腕を離してくれ」と、矢橋を見た。けれど、矢橋は、手の力を緩めることなく話を続ける。
「仲が良いのは当たり前。俺達は幼なじみなんだから」
「幼なじみ?」
「そう、幼なじみ。確かに、学生時代に俺と泉がそういう仲だって噂があったのは知ってるけど、俺達それを肯定した覚えはないぞ」
 矢橋の言葉に、悠太は、高校時代のことを思い出す。確かに、矢橋本人から佐倉と付き合っているとは聞いたことはなかったような気もする。けれど、そんなことわざわざ聞かなくても、みんなが知っていたことだ。
「う、嘘だ。…た、たしかに肯定はしてないかもしれないけど、否定もしていないだろう?」
 悠太は、突然の展開に、頭が混乱し始めていた。
 勢いで告白しそうになったことも予定外だし、矢橋と佐倉が、実は何もないっていうのも、想定外だよ!!
「まぁ、あの時は、ほら、泉って、あの容姿だろ。いろいろと言い寄る奴が多かったから頼まれてたんだよ」
「た、頼まれてた? 佐倉に恋人のフリをしてほしいと?」
 確かに、佐倉は可愛いから、ありえる、と言ったら、ありえることだけど…。
「ん〜、正確には、泉の恋人から、だけどな」
「えっ!!??」
「だから、泉の恋人。あいつ、もう何年も付き合ってる彼氏がいるんだよ。学校は別だったけど、俺と泉と、もう一人幼なじみがいるんだよ。そのもう一人の幼なじみが、泉の恋人」
「う、…嘘…だ」
 こんな都合のいい話があるわけがない。ずっと片想いしてきた矢橋が、僕に会いたいと思ってくれていて、その矢橋がずっと付き合っていたと思っていた佐倉は、実は『恋人』じゃなかった、なんて、あまりにも自分に都合が良すぎるよ。
 悠太は、だんだんとこれが現実ではなくて、夢でも見ているのではないかと思ってしまう。
「だって、こんなの都合よすぎる…」
 ボソリと呟きながら、左右に首を振った悠太に、矢橋は、
「なぁ、もしかして、同窓会の日、急にいなくなったのは、俺と泉が仲良くしているところを見ていたくなかったから?」
 と、尋ねた。その質問に、悠太はギクリとする。そんな悠太に、矢橋は嬉しそうに笑った。
「そうだったのか」
「ち、違う。急用だって、言ったじゃないか」
 悠太は、今更、と思いながらも矢橋を否定するけれど、それは、何の効果もなくて、
「そ、そうだよ。2人の仲が良いところなんて見たくなかったんだよ。今更ながら、学生時代はよく我慢できたと思うよ」
 と、開き直った。悠太は、まだ「好きだ」という言葉は言ってないけれど、すでに自分の気持ちは知られてしまったのだから、もう隠してもしかたないと思った。
「へぇ、そうなんだ。北里は、学生時代から俺のこと好きだったんだ。なんか、嬉しいな」
 矢橋は、顔を隠しながら、ちょっと意地になっている悠太が、可愛く見えて思わず頬を緩ませていた。
「俺さ、正直、北里のことは、今までそういう意味で意識してなかったけど、同窓会やってよかったよ」
 矢橋は、学生時代、悠太のことは、確かに気の会う友達だと思っていた。けれど、今は、とても可愛く見える。
「北里のこと思い出すようになって、会いたいって思ったってことは、たぶん、俺もお前のこと、好きなんじゃないかな?」
 矢橋は、今の気持ちを素直に伝えた。その言葉に、悠太は、目じりが熱くなる。けれど、
「そ、そんなことあるわけないだろ! お前は、友人として僕に会いたかったんだろ? 僕を傷つけないように気を使ってるだけだ」
 と、首を振った。
 矢橋が僕のことを好き? そんなことあるわけないよ。
「気を使ってまで、こんなこと嘘なんてつかないよ。確かに、いきなり「好き」なんて言ったら、言い過ぎかもしれないけど、俺、北里が高校時代から俺のことを好きでいたくれたんだと思ったら、すごく嬉しいんだ。だから、たぶん俺もお前のこと好きなんだと思うんだ」
 悠太は、思いもかけない矢橋の告白に、涙を押えることが出来なかった。
 同窓会へ行った時、矢橋が高校時代と同じように、佐倉と親しくしているところ見てショックを受けて、まだ数日しか経っていないのに、本当に、これは現実なんだろうか?
 でも、今、僕の手を掴んでいる矢橋の手は、とても暖かい。
「なぁ、学生時代の時のように、俺を好きでいてくれているんだろう? 俺も、北里のこと、これからもっと好きになるからさ、俺達、付き合おうよ」
 悠太は、矢橋に優しく引き寄せられた。
 矢橋が僕と付き合う。……、夢のようだけど、夢じゃないんだよね?
 ギュッと抱きしめられた温もりに、悠太は、そっと答えるように矢橋の背中に腕をまわした。けれど、パッと矢橋が悠太の体を離した。
「え?」
 突然、突き放されたように思え、やっぱりこれは夢? と、悠太は困惑してしまう。そんな悠太に、矢橋は、悠太を安心させるように笑うと、
「な、2人で写真を撮ろう」
 と、提案した。
「写真?」
「5年前は、『最後の思い出』として、2人の写真を撮ったけど、今度は、俺達2人のスタートの写真を撮ろう。俺、仕事柄、ちょっとしたデジカメは、いつも持ってるんだ」
 矢橋に今度こそ、生徒会長の椅子へと座らせた悠太は、矢橋の提案に、戸惑いながらも頷いた。
 スタートの写真か。5年前は、もう終わりだと思ったこの場所から、スタート出来るんだ。部屋に飾ってある写真、入れ替えないといけないな。
 悠太は、カメラのセルフタイマーをセットしている矢橋を見つめながら、今なら、ずっと言えなかった自分の想いを伝えられる、と思う。そう思うと、悠太は、自然と笑顔になっていた。
 そんな笑顔の悠太に、「なんだよ?」と、矢橋は首を傾げながら、
「じゃ、撮るぞ」
 と、悠太の後ろに立った。悠太は、後ろに立つ矢橋を見上げ、
「僕、矢橋が好きだよ」
 と、ずっと胸に抑え付けていた、矢橋への想いを告白した。


 それから、数日後。
 悠太の部屋には、2人の新しい写真が飾られてある。悠太の告白を笑顔で受け止めてくれた、矢橋と2人で映る写真が。



(おわり)

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